3/12(木) 第9回月刊インタラ塾レポート

「ユーザーが、一番偉い!」
〜WEB広告界の3人の須田が語る、2009年度への挑戦〜

さて、第9回 月刊インタラ塾。今回もがっつり「広告」です。須田トリオ、だんご3兄弟じゃないです。ウェブと広告を融合させて、いろいろある昨今ですが、業界の人は、いったいどう考えてるんでしょうか。

須田トリオ

■須田和博さん

博報堂。紙のデザイナーからCMの世界、そしてインタラクティブに来たという経歴の須田和博さん(以下勝手ながら、和さん)。
最近携わったお仕事の中から、特に今回のテーマに関わる、ユーザーが主体のものを紹介。

・ポカリスエットの「ブカツの天使」

全国の各地のローカルテレビ局とネットをつなげたコンテンツ。
テレビ局側が運動部のマネージャーを取り上げた番組を毎週1本ずつ制作、放送された翌週それがサイトにアップされる。マネージャーさんが自分のページで日記書いたり、読んでる人は応援メッセージが送れたりする。

・ニコニコメッセのCM 動画「初音ミクのニコニコメッセの歌」

ニコニコメッセのPRとして。ニコニコメッセの使い方を説明する歌。
本当に、マニュアルの使い方説明をそのまま「初音ミクに歌わせてください」と歌にしたという。ハンディカムで撮ったMS内の映像と初音ミクが共演しているのも話題に。ニコニコメッセの最初のきっかけとして「これ、なんだ?」みたいに思わせたかったそう。

■須田伸さん

博報堂 CMプランナー/コピーライターから、Yahoo!Japanを経て、

株式会社サイバーエージェントに。学生の頃からクリエイティブが好きで、いまの広告を取り巻く厳しい状況を憂う、江口洋介似の笑顔がさわやかな須田伸さん(以下、伸さん)。
広告産業はものをつくる、クリエイティビティのパトロンのようなものだから、広告産業が危機的状況になれば当然コンテンツ産業にも影響する。クリエイティブが根絶やしになるようなことは避けたいという思いが強いという。
たとえば、ブログを通してクリエイターが直接ユーザーや発注主とコミュニケートできるようなプラットフォームを提供していきたいという。

■須田将啓さん

2人の須田さんがクリエイティブの立ち場なのに対し、自分はマーケティングという須田将啓さん(以下、将啓さん)。
博報堂を経て、現在は株式会社エニグモを設立し独立。主にインターネットサービスをやっている。いまは4つのサービスを。広告型、マーケティング型に分けられるが、

その特長は
・真似をしない(オリジナルにこだわる)
・CGM型のサービス(ユーザーを巻き込んで新しい市場を作っていく)
・グローバルを意識している
という点だという。

・BuyMa(バイマ)

誰でも憧れのバイヤーに!
自分が売れると思う商品をサイトで紹介。その段階では仕入れなくても、値付けして紹介してしまう。注文が入ってから、買い付けなので必ず利益が出るというサービス。

BuyMa(バイマ)

いわゆるマッチングサービスなので、最初はなかなか難しかったという。広告も効かない。
まず、人が集まらないと。どうすればいいんだろうかと、アクセス解析を見ていて思いついたのが「ブログに書いてもらうこと」。それで、次のサービス「プレスブログ」が生まれた。

・プレスブログ

クライアントから宣伝したい商材を受注→プレスリリースを作成→ブロガーさんに一斉配信。気に入ったらブログに取り上げてもらい、報告に応じて謝礼を払う。
たとえば、2000人がブログに書いたとする。エニグモさんでネットワークしているブログは平均1ヶ月500人くらいが読むという。すると、一月で100万アクセス。その100万人が学校や会社で話したり、と広まっていく。「ネット上に口コミの種を仕込む」サービス。

プレスブログ(pressblog)

プレスブログが売れるサービスになり、BuyMaをじっくり育てるという方向に。そこで、次のサービスを。
当時YouTubeが来てた。ここを口コミの発展場にできないか。それが、「filmo(フィルモ)」。

・filmo(フィルモ)

しくみはプレスブログと同じ。クリエイターにクライアントからの「こういうの作ってください」というのをまとめて伝える(いわゆる「クリエイティブブリーフ」)。で、作ってもらったCMをアップ。作り手はプロからアマまで。
100本から200本という数なので、人により好き嫌いはあるだろうけど、いろいろなセグメントで知ってもらうことができる。そこが利点。また、200本もあれば1つ2つ、おもしろいものが出てくるという。

filmo(フィルモ)

・ShareMo(シェアモ)

要らないものをシェアしようというサービス。
自分が使わなくなったものを、必要な人に使ってもらう。貸したいものを登録、申し込みがあれば着払いで送るので、持ち出しはない。借りたほうが、自分がいらなくなったらまた人に貸す、というソーシャルなサービス。
ShareMo(シェアモ) 漫画の単行本やCDのシリーズなど、そうして回しているうちにライブラリとして成長することもあるという。ちなみに収益は広告だという。サンプリングだったり、ブログ、口コミの効果が狙えたり。物流からのキックバック的なものだったり。自分は3人の中では一番ユーザーよりなのではないかという将啓さん。


ということで、タナカさん進行で
「ユーザーが、一番偉い!」と題して、いよいよトークセッション開始。

ユーザーが一番偉い

■どうして「ユーザー」なのか

用意されたパネルは9枚。でも、と。パネルに行く前に、まず和さんが「ユーザーが、一番偉い!」という今回のテーマについて解説。

テーマ説明

広告の世界では、そもそもクライアントが一番偉い。
あるいは、クリエイティブディレクターがもっと偉いのかもしれない。もちろん社長が偉いのかもしれないけど、ユーザーのほうがもっと偉いんだと。
ビル・ゲイツだって、みんながMicrosoftを使うようになったから偉いのであって、そういう意味でユーザーが一番偉いよねという意味で今回のテーマに。

いわゆる「お客様は神様です」と同じことなんだけど、あえて「ユーザー」。
よく広告業界や行政用語で見かける「生活者」という言葉は、建前っぽくて使いたくなかった。その商品を使ってくれるのが「ユーザー」だから。
この和さんの言葉に、使う人にとっての使いやすさ、使ってくれる人に届く広告を僕たちは考えているんだっていう、和さんの姿勢が出てます。ちなみに、消費者って言葉は上から目線ぽくてあんまり好きじゃない、そうです(和さん)。

■コンテクスト消費

「いま自動車が売れてないというけど、そもそも消費のコンテクスト(文脈)が変わってきているのではないか?」と伸さん。
昔は、働いてお給料をもらうようになって車を買うというのが一種のステイタス、憧れだった。自分も稼げるようになったんだ、日本も豊かになったんだなと。そういう文脈の中に「消費する」ことがあった。マスメディアや広告もその流れを後押ししていた。「隣の車が小さく見えます」「いつかはクラウン」だったりとか、数々の名コピーの根底にはコンテクスト消費があり、消費者のそこをくすぐることで消費を煽った。

でも、いまの人たちは違う。特に若い人、草食系男子(お酒も飲まず、車も買わない?)と呼ばれる層は消費をそういうコンテクストで捉えていない。逆に、今は「シェアモ」みたいに、「消費しないこと」がカッコいい。

「シェアモ」で人がいらなくなったものをシェアするほうが賢い。環境にも優しいし。そんなコンテクストに乗ってる自分が好き、みたいなもんなんじゃないかと。だから、ソーシャルなアーカイブを育てていくという流れも起きる。
いわゆる「グッドウィル」が重なっていく。それをみんなが楽しんでるというのが今の社会。だから、いままで、年収何百万になったらこの車買いましょう、なんてことやってきた広告がコンフリクトを起こしているんじゃないか、と伸さん。

和さんも、「コンテンツ単品の善し悪しとか、おもしろい/おもしろくないじゃないなって流れが1年くらい前からある」と思っていたという。和さんが気づいたきっかけは初音ミクが登場したことだった。
1曲1曲がどうのじゃなく、初音ミクというプラットフォームでいろんな人が参加する、こんなの歌わせてみたよとか、こんな絵をつけてみたよとか。そういう流れをみんなが楽しんでいるのを見て、もうコンテンツ単体じゃないなと思ったという。初音ミクというコンテクストをみんなで楽しんでいる。だから、広告もその流れで変わらなくちゃいけないんじゃないか。
1つ1つのCMがおもしろい/おもしろくないじゃなくて、そういうふうに起こっている現象そのものを広告として機能させる。それはユーザーの参加が不可分。クリエイターががんばって作ったとしてもマスに流れるのは20本とか。それだと総体にはなり得ない(ものすごく強烈なコンテンツが1本あれば、それでコンテクストになるかもしれないが)。だとしたら、立ち位置とか意識を変えるべき。みんなが楽しめる、参加できるものを広告として作るべきではないかと思ったという。

これは将啓さんも、自身で「シェアモ」やいろいろなサービスをやっていて実感したことだという。いまは見ている人もバラバラだし、単品で動かすのは難しいんじゃないかと。1つ1つを大きくするのではなく、小さい1つを束ねていって流れを作る、文脈を作るというのがこれからくるんじゃないか。そういう匂いがしたと。さすが、というかすごい嗅覚だと思います。

ちなみに将啓さんの会社エニグモでよくやる流れは、filmoで何か作ってそれをプレスブログで流す。そうやって話題を作っていく。クライアントが気に入れば、それを街に持ち出す。山手線に流したり、コンビニのデジタルサイネージに流したり。そして、また話題を大きくする。そういう流れはあるが、ただ単品でどうこうということではないという。ブログにしても、すごいブロガーの一人に書いてもらったとしてもムーブメントにならないけど、100人の人、1000人の人に書いてもらったら? Googleで検索したとき、たとえば初音ミクでだーっと出てきたら、なんかすごいことが起こってるんだと思う。それがムーブメント感。

エニグモのfilmo、和さんがサービスインしたときに思ったのは「それでいいCMできるのかな」。でも、この1年くらいで別にそれが問題じゃないんだ、ベスト1,2がでるとかはどうでもよくて、たくさんのビデオ(CM)が流通するというのが重要なんだと気づいたとのこと。

■仮説探索型

ちょっと思いついた仮説をネットに投げる、すると反応があるからやり取りしていくうちにより正しい仮説を探して行ける、だから仮説検証じゃなくて仮説探索、という早稲田の先生の話から、キャンペーンもそうあっていいんじゃないかと思ったという(和さん)。

こうなりますと着地を示すのも大事だけど、途中で変わってもいいんじゃないか。ちょっとやってみて「やっぱりこっちでした」と軌道修正する、というのもありなんじゃないか。市場に投げてみて、反応を見て正解を探せばいい。
これはネットのサービスでもそうだ。「これだ!」と作りこんで出しても絶対予測どおりはいかない。ネットは変化が激しい。前提条件が予測時とリリース時では変わってしまうからだ。何が当たりかは出してみないとわからない。最初は当たりでもどんどん変わっていく可能性がある。

将啓さんたちが辿りついた方法もある意味、この「仮説探索型」だ。ある程度の予算を決めて、まず小さな規模でやってみる。うまくいかないかもしれないが、この予算を使い切るまではやろう。よければ、そのいいところを拡張していってみようという方法。従来のソフトウェア開発のように完璧に仕上げてリリースというのとは考え方が違う。サービスを出したときが終了ではなく、始まり。
サービスもサービスを提供する側も、ユーザーと一緒に成長していく。
これまでの広告の世界ではまずあり得ないが、ウェブでは当たり前な感覚のβ版公開。そういうカルチャーを生かしていったほうがいい。

■ブランデッドユーティリティ

「2008年広告業界の最重要キーワードだった」(和さん)。
ユニクロックがこの「ブランデッドユーティリティ」を掲げて、世界中から高い評価を受けた。それでうちもブランデッドユーティリティやらないとまずくないか、みたいな空気になってるけど、そもそもブランデッドユーティリティって?

和さんなりの解釈は、「みんな忙しいから、役に立たないことにはふれようとしない。それがブランデッドユーティリティなんじゃないか」。役に立つことではじめて接触してもらえる接触したいと思わせるようなメディアになる。自分なりに中高生向けにブランデッドユーティリティを提供するとしたらと、そう考えて、出したのが、魔法のiらんどさんと組んだ、部活のホームページを作れるサービスだったという。
いわゆる「プロモーションとしてのサービス」広告は将啓さんがやっているようなサービス開発により近づいていってると思う、見たら終わりじゃない、そういう視点が必要なのではないか、と。

■突っ込まれクリエイティブ

どう突っ込めるか。初音ミクのニコニコメッセのとき、ポイントはそこだったという。取説を歌詞にしたというのもそうだし、カットごとにいろんな突っ込みどころを仕込んだという。CGM時代にマス広告的なものがどう広まるかというと、この方法なのではないかと。ユーザーがいろいろ書ける、突っ込めるから広まるのだ。
その後の展開も、このネタを使って誰かがリミックスとかしてくれたりするといいなあと思っていた(歌も全部コモンズに上げていた)そうなので、相当な確信犯ですね。

■ユーザーとの向き合い方

まず、和さんが広告会社としてどうユーザーと向き合っていけばいいのか、を。広告会社の立ち位置は、実はあまり変わっていないという。

以前は、企業のメッセージを代弁する、ユーザーに伝えるというのが広告の役割だったが、いまはソーシャルメディアが発達してユーザーが自身で情報やメッセージを発信するようになった。だけど、ユーザーと企業の間にいるというのは変わっていない。それは、サービスをロンチする意味でも同じなのではないか。

ここで、サービスの側から将啓さん。プレスブログをはじめるとき、絶対そんなの機能しないと、特に広告の人から言われたという。クライアントはお金を払うのに媒体(ブログ)にどう書かれるかわからないなんて、そんな広告にお金を出すかと。しかし、実際プレスブログをはじめて効果が出てくるとクライアント側の意識が変わってきたという。どう書かれるかわからないけど、書かれることで話題になれば、そのほうが効果的だと。ここ2,3年の間に、クライアントとユーザーが対等になってきた。
いっぽう、ユーザーが変わってきたのでクライアントもそれについていかざるを得ないというところではないか、というのは伸さんだ。
経験値、これまでのテレビ広告、グラフィック広告だったりマス広告では財産であるものが、メディアのパラダイムが変わった今、逆に経験値がある人ほどそれが足かせになってしまうのではないかと。ネットに従来の作り方や、他のメディアでの経験則を持ち込んでもうまくいかない。

これまでは、メディアつまり、新聞であれば記事と紙、テレビとテレビのコンテンツなど、パッケージとナカミが一体となっていた。この場合、システム側にいることが強みであった。でもいまアウトプットがマルチウィンドウ化している。ネットで配信されたものが、街中のデジタルサイネージにいくかもしれないし。結局、システム側にいることの強みが薄くなってきている。そういうマスメディアのパラダイムが変わろうとしているのが今だと。

クライアント

■未来の広告

技術とメディアとクリエイティブ。広告の未来を作るには、新しい技術、新しいメディアを使ってクリエイティブな能力を発揮していくしかない(和さん)。

 技術×媒体×制作

この場合、メディア(媒体)は何でもあり。ウェブでもiPhoneでもいい。いわば、ユーザーとの接触ポイント。そういう新しいメディア、新しい技術を学びながら、でもクリエイティブもおろそかにしちゃいけない。結局はネタだろうと。最新の技術を使ったものであろうと、結局はネタ。そういう意味で、この3つのかけ算が未来の広告だと。

伸さんは、中川元大臣の一件から広告の未来を語ります。メディアがフラットになっている。あの会見の直後、日本のマスコミは報道していない。何かちぐはぐなやり取りがあった程度だった。海外のメディアで取り上げられ、YouTubeに上がったりして、はじめて日本のマスコミが騒ぎだした。
つまり、世界がもうつながってしまって、日本の中でオフレコにしようよなんてことはもうきかない。まさに、メディア、クリエイティブなど、こういう世界にいまいるんだということを認識する段階じゃないのかと。

将啓さんは2人の話を受け、そういう中で広告代理店がどう絡んでいけばいいのか、というのが気になると。新しい技術で新しいメディアが増えていくと、おそらくすべてを追いきれなくなる。企業とユーザーは、どんどん直接つながっていくだろう。ユーザー自身が媒体になり、企業とより密になっていく。そのときに広告代理店のビジネルモデルがどうなっていくのか?
そこはかなり実はやばいんだというのは和さん。「仮説探索しない広告代理店ダメ、テクノロジーについていこうとしない広告代理店ダメ、クライアントとユーザーが直に向き合おうとしているとき、間に入ろうとしないところもダメでしょう。いま警鐘をならさないとやばいんです。」

■クリエイターの今後のあり方

最後に、タナカさん自身、非常に気になるという「今後、クリエイターはどういうことを目指したらいいのか?」その指針をお三方から。

和さん:
どんどん新しい仮説を探索してください。スタンスはβ版。過去の経験則に縛られない。とはいえ、定着は必要。とりあえず、何かのプロになる。それを足場に他のプロになっていってください。

伸さん:
クリエイティブにはクリエイターとプロデューサーという役割の両輪が大事。これまでは広告会社であったりテレビ局であったりがプロデューサー的役割を果たしてきたので、ビジネスプロデューサーが不在でもシステムとして回ってきた。でも、いまビジネスプロデューサーが必要なのではないか。クリエイターとうまくコミュニケーションができて、同時にビジネス的な動きをできる人が必要になる。と言う意味でも、やはり個と個の結びつきが重要になっていく。

将啓さん:
クリエイティブはすごく必要。いまのネットベンチャーは、自分だけじゃなくいろんな企業が求めているはず。活躍するフィールドは実は広い。ぜひ、幅広に考えて、自由に行きたいところに行って活躍してください。

クライアント

話を聞いた印象は、いまの広告業界に危機感をもっていろいろ考えてるんだなと。
一般市民、普通のユーザーにとってこれまで広告業界って遠いものだったけど(これもおかしいですよね。自分たちに向けられているものなのに)、作り手、受けて、発信者と、どんどん境界がなくなっていくのかも、と思いました。
個人的には、メディア力、欲しいと痛感するこの頃です。

REPORTED BY 大内孝子

月刊インタラ塾