6/11(木) 第11回月刊インタラ塾レポート

「勅使河原一雅のクビエイティビティ」

ごぶさたです!! すっかり夏ですね。が、季節は梅雨に戻っていただいて、6月11日の第11回インタラ塾のレポートです。ゲストは、首美(qubibi)の勅使河原一雅さん。「adidas SALA FESTA 2009」「猿人 ウェブサイト & Pitfall」など、独特の世界を作り出す勅使河原さんは、やはり独特な、そして魅力的な方でした。

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・最初に「首美」の理由

今回はたっぷり1時間、タナカさんと勅使河原さんのトークセッション。まず、「首美の理由」から。これは、「首美術」を略して「首美」なんだそうです。もともと「首」っていう言葉自体が好きでハンドルネームにしてて、その美術的な行為というので「首美術」。どうして首美と略すかというと、多摩美とか武蔵美とか略すのに憧れて。ちなみに、「首」が好きな理由は「頭と身体をつなぐ重要な部分なのに、決していい意味で使われるわけではない。ちょっとイヤラシさもあったり…。なんか、ぞくっとする感覚がある」から。
ということで、タナカさんの長年の疑問が解決したところで本題に。「勅使河原一雅、自身の作品を語る」です。

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■勅使河原さんと見る勅使河原さんの作品

猿人 ウェブサイト & Pitfall

クリエイティブエージェンシー「猿人」のコーポレートサイト。いわゆるピンクの本(Webデザインの「プロだから考えること」)でも取り上げられており、それによると1年越しで出来上がったサイトだそうです。このサイト、まず見てもらえればわかるんですが、サルの惑星という感じで広いグラフィックが展開されており、現れる穴にバナナが入るとそこから地底の、猿人がうごめく世界に入り来んでいくという感じ(自分解釈です)。

猿人 ウェブサイト & Pitfall

この仕事の場合、最初に猿人さんのほうから「何かおもしろいものを作って欲しい」という話があったという。そこで、「猿人」っていう会社名自体インパクトがあったので、そこから拾って作っていったそうです。フルに勅使河原さんのディレクション。
この映像、インタラクションはなしで、何か動かすと戻ってしまう。なぜそういうデザインにしたのか? しかも、もともとは(もっとたちが悪くて)クリックして押したままにしているときにだけ見れるという仕組みだったそうです。それがブラウザの仕様でどうしてもできない部分があって、最終的に現在の形に。
通常は動かす、画面を進めることを意識するが、「(映像へは)特に、必ず見てもらいたいというわけでもなく、普通に情報として見ることのできるものの中にポコっと穴があって、そこに対してはたまたま気づいたとしたら、というくらいの軽さで入りたい」と。当初、バナナを動かすということもやってみたが、そうするとゲーム性が出てしまって、ただバナナが動く、それがおもしろいというだけで終わってしまうほうが強い。そうではないということで、こういう形になったそう。
グラフィックは全部勅使河原さんが作り、ランダムに現れる。この作品など、最近のここ2,3年の傾向として表現が映像にシフトしているのではないか、とここでタナカさんの突っ込み。そういう意識は自分であるのか、映像を作りたいというのがあるのか? 「自分としてそれはないが、僕に期待される部分というとマウスを動かすと何か起こるとか…ということが多かったんですけど、それに対するアンチテーゼという意味もちょっと込めてるというのはある」と。
また、画面には繰り広げられた映像世界の痕跡が残る。これに気づいた人がどのくらいいるのか? 気づかない人のほうが、最後まで見た人はあまりいないのでは? と勅使河原さん。
最後まで見られないかもしれないサイト―普通ならクライアントからストップがかかりかねないが、それでも、猿人さんはこの方向を理解してくれたという。
この案件で一番気をつけていたのは、広告制作会社のサイトなので広告を作ることだけはいやだという点だった。そういう気持ちがあちこちに出ているのではないかと、勅使河原さんは分析する。つまり、何が広告かというと、「コンセプトが伝わりやすい」「明確な意志が人に伝わる」というのを広告の1つの要素とすれば、まずはそれをとっぱらいたいと考えた。
しかし、だからといって、イメージを、グラフィックを並べただけかというとそうではない。猿人サイトのトップ、これは天球図をモチーフにしていて、世界を猿人が中心になって動かすという意味をこめている。この穴もトップページの地面も月である。壁画のように地面に描かれているのは、獲物を追いかける様子であったり、さっきの映像も猿人がバナナを追いかける。人間は欲望を追いかけることで中で進化を遂げている、その過程の中にある猿人なのだという。
クライアントにグラフィックや世界観を説明する、自分の表現に対する理詰めはできているのだ。

INDIA(『Pen』10周年記念コンテンツ)

オープニングはインドの民族楽器っぽい音(シタール?)。人間がゴロゴロ現れてくる。マウスで転がしてもいいしし、放っておいてもいい。
どうして「インド」だったのかというと、雑誌『Pen』側から最初に提示されたキーワードの中にあって、好きなものを選んでよかったのでインドで好きに作ることにしたという。実際には雑誌との連動で、雑誌ではインドの文化や最近の成長だったり、を特集していたらしい。
インド、というだけでこの世界を作り上げたという。人間が現れて人生を過ごし、死んでガンジス川に流されて、また転生して…。インドの宗教観、輪廻転生、カースト制というイメージを意識したコンテンツ。「はじめに海があって海に神が生まれて、でも神からその海も生まれた」というインドの考え方が好きなのだという。
このグラフィックもすべてランダムに生成される(配置は固定しているが、パターンはランダム)。

INDIA

adidas SALA FESTA 2009

これは目で見て体感してください! 自分があたかもプレイヤーになって縦横無尽にドリブルでボールを進めていく。果たして、どういう経緯で思いついたのか? 向かってくる、次から次へと現れる「神猿」はこのキャンペーン自体のキャラクターなのだという。その神猿のコスチュームがもともとは仁王像みたいで威厳があったのが、マナー的な問題で変わってしまって。それがとても、雑魚キャラちっくというか。神技級のすごいキャラのはずが雑魚キャラな感じがしてしまって。それで、こんなふうに見せたほうがいいんじゃないかと、あえて。
そうして、一見雑魚キャラをけちらしていくという感じだが、実は追いつめられている、悪夢に近いのだという。もちろん、悪夢的なビジュアルも意識してのこと。

TORIKAGO

これは、ブログのキーワードを拾ってきて何かをするという、MSの検索エンジンのキャンペーン用のスペシャルコンテンツ。隠しコンテンツとして、何か作ってくれという依頼だったという。
「ブログ」から連想して「鳥かご」。ブログは記憶の捨て場ではないかというところから。記憶の断片がたまっていく。それを食べる鳥。日々書き連ねた記憶を振り返ることはない。ブログという記憶の捨て場、記憶の断片を喰らう鳥、そこから逃げる自分というお話。鳥はこのMSのキャンペーンのメインキャラクターをデフォルメしたもの(もともとはとてもかわいいキャラクターだった!)。
ちなみに勅使河原さんは、まず物語を書くことから、テキストで大まかなストーリーを考えることから作業を始めるそうです。

TORIKAGO

Daydream

Weave Toshiという帽子を作っている会社のコレクション用のサイト。マウスを回すことによって画面の中のオブジェ(時計の針だったり、帽子だったり)を回すことができる。帽子を使ってコレクションといっても買えるわけではないので、これを見せて知ってもらうという主旨。3年前のコンテンツなのに全然古さを感じさせない。
鳩時計をモチーフに全体を構成しようとしたのは、勅使河原さん自身が「時計が好きだから」(実はもっともっと「時計」でやりたいことがあるという)。秒針があって、だんだんスケールが大きくなって時まで回す、そのイメージ、小さなものから大きなものへのスケールの変化といったもの、子どもの頃から時計が好きなのだと勅使河原さん(しかも、回ることがもともと好きなので、特にアナログ時計)。
さらに、それ(=時計)を回すというアイデアは、子どもが自転車の車輪をぐるぐる30分くらい回していて、それを見ていて広がったそう。
コレクションとして帽子を回すことで「見せる」、人が変わっていくということもすべて考えてのこと。それを実際に形にしていっただけ。撮影から何から一人でやっているという。

Daydream

・六本木ヒルズアリーナのショーサイト

六本木ヒルズアリーナという野外イベント会場のサイトで、サイトの中で、イベント(作品)を紹介するというもの。1つを3日とか4日で作らなければならず、これで鍛えられたのではないかと。これがなかったら、今の自分はない(勅使河原さん)。
その中からいくつか紹介。

トランポリン

トランポリンでショーをやるイベント用のコンテンツ。9.11の1年後くらいに、ビルから降りてくる人、それに無関心な人という配置。

バイカーズ

これはadidas SALA FESTA 2009の原型といえるコンテンツ。すでに何度も出ている、ここでも「追いつめられる、逃げるという感覚が好き」発言が。

510アクロ

マウスで舌をつかんで伸ばす、すると人がふってきてそこでトランポリンするというコンテンツ。


勅使河原さん自身は、「どれでも、簡単な誰でも思いつきそうなアイデアをやっているだけだと思う」というが、どれもそうは思えないところがすごいです。この時期のものが今のコンテンツの原点となっているというケースもあり。


■インタラだよ。質問しよう!

では、ここからはさっくりQ&A形式で。

Q:この写真なんですか?

なんで? と思うところがなんで?なんですが…。なんか、投げやりなのって好きで。たとえば、Photoshopのブラシで目のやつがあって、それをポンと載せただけとか。これは、それとは別の投げやりさなんだけど。

勅使河原さん

Q:この仕事をはじめたきっかけ

なりゆきじゃないですかね。20歳、21歳の頃。ネスケ3とかの頃で…。中学卒業して生地屋さんで働いてて、20歳の頃。アルバイト情報の雑誌で「おもしろいことしませんか」ってところにいったら、アダルトコンテンツのサイトを扱っているような会社で、半ば脅されて。怖くなっちゃって、それなら大手にいこうと2週間くらいで大手の出版社に。ウェブコンテンツをやってたんで。最初の日に感想文を書くことになっていて、そこでサイトのデザインが気に入らない的なことを書いたと思うんです。そしたら、やることになりました。で、HTMLも勉強して。
出版社は1年くらいで辞めて、ラフォーレ原宿のサイトを作っている制作会社に入って、ラフォーレ原宿のサイトを作ってました。アートディレクションとか。ここでやったことがその後の六本木ヒルズアリーナの仕事につながっていった感じです。

Q:自分が手がけたもので一番好きなものは何ですか?

「INDIA」かな。それは、思った通りの形が一番再現できているのがINDIAだから。企画自体が個人作品を作れという感じのものだったので。それに、やってみたら自分が昔から持っている感覚がインドのに近かった。
基本的に自分が作ったものは恥ずかしかったり、出来上がった頃にはあきてたりしますね。恥ずかしいのが大きいかな。

Q:今まで失敗したこと

案件ですよね? 人生では失敗はしていないです。案件だと、TORIKAGOですね。考えていることが全部は再現できなかった。頭の中でイメージしているもの、それをディスプレイの中では収めることができなかった。
ちょうど、帽子の案件で賞をとって落ち込んだ頃で。そもそも、追いつめられる感覚は好きだけど、実際に追いつめられるのは好きじゃないんですよね。ほんとにプレッシャーは大嫌いで。わからなくなるんですよね、人がどこを求めてくるのか、自分が何をしたいのか、どこを主軸にしたらいいのか…。インタラクション、マウスを使って何かおもしろいことをしなきゃいけないんじゃないかと思って。いまはもうそういうのはないですけど。吹っ切れたと言うか。

Q:好きな映画

フェリーニの『道』。

Q:好きなテレビ番組

テレビは見ないです。

Q:思い出のゲームは? 今好きなゲームは?

『ゼルダの伝説 時のオカリナ』を、今やってます。思い出のゲームはファミコンの頃ですかね…。ゲームに対しては特別な気持ちがあって、部屋の真っ暗にしてやるのが好きで。ブラウン管がチカチカするのかたまらなく好き。なので、『バンゲリングゲイ』『エグゼドエグゼス』ですね。昔のファミコンゲームの点滅が好き。

Q:「クビエイティビティ」のために毎日心がけていること

あまり人の作品を見ないことですかね。ウェブサイトも見ないです。そもそも、あまり興味がないかもしれないです。普通によく使うサイト、日常的に使うサイトくらいしか見ない。それから、案件ごとに生活スタイルを変えるようにしている。偏ったものばかり食べていると精神的に不安定になるだろうし、インドものだったらインドの音楽しか聞かないし。

Q:何時に起きて何時に寝てますか?

朝は早いです。7時8時くらいに起きてます。子どもを保育園に送るので。夜は、前は子どもと一緒に9時くらいにはもう寝てました。最近はそうでもない、不規則ですけど。実際に働いている時間は短いです。4,5時間くらい…。

Q:普段のプレゼンは?

口べたとかイメージがあるかもしれないですが、普通に説明しています。通らないこともないです。「絶対よくなりますよ」みたいなことも言います。よくならなかったら最悪なんですけど。それで信じてもらえないのは、自分の実力がないからということだし。そういった手前、また追いつめられるんですね。

Q:作品作りに参考にするもの

勉強はしますね。歴史の勉強とか、相当調べ尽くします。図書館に入り浸りになって。あと自分の夢です。

Q:デザインで困ったときに頼る色(テクニック)は?

困ったときに色には頼らないですね。技術に頼ることはしない。寝て、次の日の自分の任せるのが一番じゃないですかね。何かで読んだんですけど、寝ている間に自分の脳が整理してくれる。だから、眠っている自分に任せておけば解決してくれる。

Q:今一番興味のあること

…。

Q:ここだけは誰にも負けないというところは?

ないです。

Q:モテますか?

ないです。

Q:ケンカして降りた仕事はありますか?

それはないですね。

Q:年収は?

低かったり、高かったり。

Q:好きな国は?

日本ですかね。

Q:もし5億円あったら仕事を続けますか?

続けますね。仕事という形なのかは別としても、もの作りとしては続けます。

Q:あなたは何者ですか?

(自分を誰かに紹介するとしたら)だらしない。わりと不真面目。

Q:創ることの源は?

快楽です。気持ちがいいから。

Q:独特なビジュアル表現はどこから?

小さい頃の記憶が大きいです。その記憶をたどること。それに、僕は一人でやっているので、グラフィックを作っている段階から最終的なプログラムが通った状態を意識して作っているというのも大きいと思います。だから、完成形が見る人にとってはそう思えるのかもしれない。グラフィックが出来上がっただけでは、完成形じゃないんです。

Q:作品を作るとき、音楽をつけるときに気をつけていることは?

僕は音楽から作ってます。というか、音楽をかなり初期の段階からまずイメージする。どういう音楽が合うかということを考えてます。

Q:ビジュアルのイメージで、すごくこだわっているとか好きなものがあれば…

こだわっているというか、それは特にないと思うんですが。自分が何を得てそれが結果としてどう出ているかはわからない。わからないけれども、僕はフェリー二の映画が好きだったりするので、それによってイメージが出ているってことはあるのかもしれない。

Q:最後に一言!

今日、ここに来てくれた方はものを作る人が多いと思うので。好きなようにおもしろいものを作って玉砕するか、うまくいくかってことをやっていってください。僕もがんばります。

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非常に真摯に1つ1つのことを語ってくれた印象の勅使河原さん。あの空気感は相当、独特。素人ながら、彼の作品にその人とナリが現れているのだとつくづく感じました。個人的にとても強く共感してしまったのは、「表現の根源に幼少の頃の記憶がある」こと、それとフェリーニ好きでした。
ここで断言しておきたいのですが、もし勅使河原さんのお話を生で聞く機会があれば、逃さず、絶対に聞いておいたほうがいいです。これは絶対!! 彼の空気感はライブで味わって欲しい(いつかあるチャンスに)。

REPORTED BY 大内孝子

月刊インタラ塾